2013年2月5日火曜日

『雌に就いて』

これはまた異色な作品である。

『雌に就いて』という題名がなぜ『女に就いて』ではないのか分からないのだが、とにかく二人の男が「自分の嫁にするならこんな女がいい」という事を論じあう形式で、殆どが会話文で構成されている。こんな女こんな女と話が進んでいくうちに、ああしてこうしてと妄想が膨らんでいくという何とも剽軽な筋書きだが、最後に太宰的なオチが待っている。妄想が進み、女と宿に行って、寝る間際に女に死のうと持ちかける所までいくと、友人が「よしたまえ。空想じゃない」と遮る。そして「空想じゃない」と言った友人の発言は現実のものとなる。翌日、女と心中したのである。例の、自分だけ死に損なった件である。

何だか何が言いたいのかよく分からない筋書きだが、山岸外史宛の書簡によれば、太宰はこの作品を一晩で、しかも井伏鱒二の奥さんと談笑しながら書き上げたのだそうだ。要するにかなりテキトーに書いたという事だろう。道理でよく分からんわけである。芸術とはこんなものでもいいのかも知れない。